1.視床前部梗塞10例(左病変6例、右1例、両側病変3例、全例右利き)を検討した研究では、急性期に医術障害、慢性期に自発性低下が認められたが、前例に記憶障害があり、いずれも前向性健忘を主体とし、左病変では言語性、右病変では視覚性の記憶障害が優位であった。 2.左視床前内側部・傍正中部限局病変を10例を検討した研究では、コルサコフ症候群1例以外では逆向性健忘・作話は認められず、純粋健忘症候群2例では、言語性前向健忘が選択的に認められた。6例には、言語性以外に視覚性前向性健忘もみられたが、自発性、知能性、言語成績も低下しており、前頭葉の機能低下を随伴していることが示唆された。前内側部損傷例と傍正中部損傷例とで記憶障害の内容に質的差異はなかったが、これは、乳頭体視床路と内髄板とが同様に損傷されていたためと考えられた。障害陽性例では前頭葉を中心とする皮膚の血流低下が認められ、陰性例1例ではそれが認められなかったことから、視床-前頭葉間の神経路の損傷による前頭葉の血流低下が記憶障害と関連していることが示唆された。 3.脳弓に限局した両側性の損傷を持つ患者では、エピソード記憶に関する前向健忘症が言語性、視覚性のいずれにも認められたが、逆向性健忘は認められず、意味記憶、手続き記憶も正常であった。 4.脳梁膨大後域にほぼ同様の棒変を持つ左損傷例と右損傷例を比較した研究では、左病変によって記憶障害が生じ、右病変では道順障害が起こることが明らかにされたが、これは僅かな病巣部位の違いによると考えられた。 5.ウイルス性脳炎の1例では、前向性健忘を伴わない純粋逆向性健忘が確認され、「記憶の形成」と「記憶の想起」とが異なる脳内機構であることが示唆された。
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