交通事故発生の原因として道路交通参加者の意識や行動の非等質性が重要な要因の一つとして考えられる。互いに異なった安全意識態度は異なった行動様式を産み出し、そこにコンフリクトが発生する。様々なひとびとが同じ道路を利用する言わば混合交通のなかで高齢者はどのような交通行動を示し、それが他の年代のひとびととどのような異質性を示すか。さらにいかなる交通コンフリクトを示すかについて基礎的なデータを得ることにより高齢者の安全と移動の確保のための工学的対策や、運転者教育のための方策を検討することが本研究の目的である。具体的には高齢者が最も苦手とする交差点、しかも信号機のない交差点を観察対象として、ドライバーが右折する際のタイムギャップや確認行動を観察し年代間の比較を行った。その結果以下のような知見が得られた。 (1)右折時に見られる運転者行動の特徴の一つとしての左右確認行動は、他の年代の運転者と比べると高齢ドライバーは頻度において有意に少ない。 (2)右折時の直進車との間のタイムギャップは年代間で差が認められなかった。 (3)6種類の交通コンフリクトのパターンが確認された。高齢ドライバーではその中で、右折動作の遅さによるコンフリクト、左右からの直進車の見落としによると思われる原因のコンフリクト、待たされることによる焦りから来ると思われる不適切な右折敢行によるコンフリクトの3種類が多く認められた。 (4)相手にブレーキ操作やハンドル操作を行わせて事故回避が行われるような危うい交通コンフリクトについて調べたところ、若者と高齢者に多くの事例が認められた。 高齢者は若年ドライバーと同様に事故率が高いとの結果が事故統計からしられている。しかし、交通行動の実態は十分に明かにされてこなかった。本研究によって高齢ドライバーの持つ問題点と解決すべき課題の一端が明かにされたことで、高齢ドライバーへの安全教育の具体的で有効な教材が得られた。
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