本研究では特に交差点を調査対象として、そこで見られる高齢ドライバーの運転行動特性と問題点を明らかにした。得られた知見は次の通りである。(1)高齢ドライバーが右折時に直進車との間にとるタイムギャップは他の年代と比較し差が認められなかった。タイムギャップの長短は一般にリスクテ-キングの指標として考察の対象とされる。高齢ドライバーは自他共に安全傾向が高いと認識されているが、タイムギャップが高齢者において有意に長い時間を示しているとは言えず、高齢者が特に若者と比べて低い危険敢行性をもつとは言い難いのである。あるいは危険敢行性は低くとも対向車の速度や距離判断に問題のある可能性もある。また対向車見逃しなどの知覚的問題の可能性もある。(2)高齢ドライバーのおこす他車との間のコンフリクトを検討すると、自転車や二輪車との間のコンフリクト、右折に際しての待ち時間が長いときに起きるコンフリクト、右折に際しての動作の遅さが原因となるコンフリクトが多い。さらに直進車を停止させてしまうような重大なコンフリクトが高齢ドライバーにおいて特に多く認められた。その内容を見ると二輪車の見落しあるいは軽視によるものが多く、高齢ドライバーの交差点での情報処理能力の低下の問題とその対策を考えることが必要である。(3)「ドライバーの心理的機能-行動-事故の因果関係を知ることはドライバー教育にとって重要である。加齢に伴う心理的身体的機能の衰えについての検討は多くなされてきたが、高齢者の交通行動特性については実験室的な機能測定結果からの単なる類推にすぎない場合が多い。反応動作の遅延、視力の低下が交通行動のどの側面に影響し事故につながるのか。高齢者の心理的身体的機能特性と交通行動特性とをもっと明確にする努力が更に求められる。本研究により高齢ドライバーの交通行動における問題点を課題の一端が明らかにされたと言える。
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