本研究は、アンケート調査を実施することにより、高齢者密集地区では「高齢者問題は高齢者自身が解決に当たるという高齢者文化」が育成されるという、A・ローズの仮説を、高齢者の相互扶助行為と政治的行動に焦点を当てつつ検証することを目的として企画された。 本研究の特色は、A・ローズが提案した「高齢者文化」という概念を再検討し、その行為水準は階層的に配置されており、またその行為も政治的行為以外に種々のタイプが設定さるべきであると主張した、ことにある。 調査対象は、大都市と地方都市に住む60歳以上の一人暮らし老人と夫婦だけの世帯であり、その他、コントロール群として大都市の高齢者も調査した。回収票は512であった。高齢者文化の育成には情報伝達の重要性を予期していたので、CATVの放送エ-リアであることも調査対象地を選ぶ重要な基準とした(そして調査の結果、情報が大きな意味を持つことがわかった)。 調査結果をよると、高齢者文化は、高齢者問題に関心を抱く段階、それについて他者と会話する段階、高齢者に対して何らかの非政治的行動を起こす段階(本研究では相互扶助行為がそれに当たる)、個人的ではあるが政治的行為を起こす段階、そして組織的に政治的行動を起こす段階、と階層化されているようである。そして、第4段階まで達している高齢者さえまだごく少数で、日本では高齢者文化はせいぜい第3段階でしかないことが判明した。 なお、第2の段階への促進要因は情報源であり、第3段階へのそれは情報源と生活ニーズ充足者が自分の身近にいるという高齢者自身の認識が効果的であるようだ。そして第4段階にいたるには第3段階の行為自身が有効な促進剤になっているようである。
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