本研究は、高齢者密集地区では「高齢者問題は高齢者自身が解決に当たるという高齢者文化」が育成されるという、A・ローズの仮説を、高齢者の相互扶助行為と政治的行動に焦点を当てつつ検証することを目的として企画された。 本研究の特色は、A・ローズが提案した「高齢者文化」という概念を再検討し、その行為水準は階層的に配置されており、またその行為も政治的行為以外に種々のタイプが設定されるべきであると主張した、ことにある。 本調査においては、高齢者問題を解決するための高齢者文化最高の行為水準は、「行政への直接的働きかけ」であったが、以下、「高齢者を社会的場面で扶助する」「高齢者を個人的場面で扶助する」の計3段階に分かれることが判明した。そして、少なくとも現状で判断する限り、最高段階は他の段階とは直接的相互作用関係にあるというより、それらを促進する要因が共通であるという意味において間接的関係にあった。 つまり、高齢者文化を育成する要因は全3段階の行為水準に影響するが、下位2段階は促進要因とは一方が育まれれば他方も進歩し、その逆も成立するという 相互関係にある。したがって下位水準の行為を高めていけば、促進要因の機能もより強力になり、それが最高水準の行為を引き起こす、という図式である。 そしてその促進要因には社会的にコントロール可能なものとそうでないものがあり、高齢者自身が互いに助け合いながら自分たちの問題を解決するという高齢者文化は、社会的政策のあり方によって育つこともあり得るということが判明した。コントロール可能な要因とは、近隣では高齢者同士の交際が頻繁であるという認識、近所にニーズを満たす援助者がいること、高齢者に関する情報を入手できること(CATVの可能性は大きい)、過去高齢者に手助けをした経験と持つことなどであり、コントロール困難な要因とは、現在地での居住年数が長いこと、外向的性格の持ち主であることであった。 高齢者密集地区でこそ高齢者文化が育ちやすいという点については、そのよう地区では一部の行為だけであるがそれが顕著であること、促進要因がそのような地区でこそ容易に実現できること、などで、仮説の持つ意味が検証された。
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