研究概要 |
1.分析対象となるモシ族の太鼓ことばの音声データを整理・分類の上、パーソナル・コンピュータに入力した。 2.これによって、これまで、モシ族の音の概念および旧型のソナグラフによる分析から川田・山本が仮説的に提出していた、音質に基づく太鼓音の2種類(Y,R)とY,Rそれぞれの中の周波数成分の分析に基づく亜型の妥当性について、さらに精緻に検討する可能性が開けたことは、この研究にとって大きな前進である。 3.比較資料とするカセナ族の笛ことば、ヨルバ族の調べ緒太鼓の通信システムについても、コンピュータへ入力することによって、言語音と器音の変換システムの多様な可能性を、比較検討することができた。 4.他方、高低2音調が弁別的でありながら、階段状下降音調を持つモシ語の、音調をはじめとする超分節的特徴のコンピュータによる適切な類型化や、モシ語の音素を弁別的特徴の対立によってとらえ直し、太鼓音との対応の可能性を検索することなどの作業は、緒についたところであり、第2年次へつづく課題である。 5.太鼓音と言語音の双方が録音されている資料のうち、句のレベルでの双方の対応が音調の面で明確であるものと、まったく対応がないと思われるものそれぞれの典型例をとり、後者については、音調以外の、例えば分節的特徴の面での対応の可能性があるかを探索することも、上述の作業の結果始めることができた。 6.器音による言語メッセージの伝達は、言語音の分節的特徴が消去される結果、伝達は一般に余剰(redundant)になることが指摘されているが、モシの王朝史語りの太鼓ことばにおいては、同一メッセージの長年月の反復伝達の結果、逆に省略(abbreviation)が生じていることが認められ、この点も今年度のコンピュータ処理によって分析の端緒が掴めた。
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