1 アイヌ語話者葛野辰次郎氏(北海道静内町在住)を訪ねて、日本語による談話、アイヌ語によるカムイノミ(神への祈り)等を、デジタルテープレコーダ等で録音するとともに、8ミリビデオに録画した。 2 アイヌ語によるカムイノミについては、アイヌ語の研究者中川裕氏ほかにご確認いただき、文字化資料として、まとめることができた。 3 これまでのアイヌ語話者の日本語資料を分析することによって、次のような新しい知見が得られた。 (1)母語アイヌ語の干渉と思われる特徴が、(1)主に1拍目の音を引き伸ばしがちなこと、(2)母音オとウが近似していること、(3)連母音同化を起こしにくいこと、(4)サ・シャ行音及びザ・ジャ行音の区別がないこと、(5)いわゆる清音と濁音との区別がないか混同が著しいこと、(6)拗音を直音ふうに発音する傾向があること、(7)イントネーションが平板な調子になりがちなこと、など、主として音声面に観察されることがかなり詳細に分かってきたが、文法面においても、(8)助詞「に」「しか」などの用法、(9)自動詞・他動詞の混用、(10)文末の表現、などにアイヌ語の干渉が認められる。語彙面には、借用語がいくつかあるものの、アイヌ語の干渉はほとんどない。 (2)アイヌ語話者たちが身に付けた日本語は、主に明治期・大正期、さらには昭和戦前期のものであり、昭和30年代以降の共通語化が急速に進む以前のやや古い北海道方言である。東北方言的な特徴が基盤となってはいるが、移住者たちが持ち込んだ全国諸方言が混交しあって、織田氏の日本語に淡路島方言から取り入れたと思われる特徴がいくつか観察されることに象徴されるように、近隣在住移住者の日本語方言が反映している。 (3)アイヌ語話者の日本語北海道方言には、個人差がまた少なくない。
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