方言の共通語化の著しい現在でも、その程度は、地域、年齢、階層、場面、話者の個性等によって複雑な様相を呈している。本研究は、これらの実態とその要因の解明を試みるため、方言色が強いとされている東北地方の中で、関東方面との接触の多い位置にある福島県浜通りの相馬地方をフィールドとして調査、研究を行ったものである。具体的には、同地方の中でも農村部の小高町と中心都市の原町市市街地を対比させながら、両地域の住民の各年齢層、男女合計170名について、音韻、アクセント、文法、語彙にわたり方言の共通語化の実態とその社会的、心理的背景との相関関係を考究した。 その結果、音韻、語彙ではかなり著しく、また、文法でもある程度の共通語化が進んでおり、農村部と都市部とで、また高年層と若年層の間とで、方言の共通語化の度合に差のあることが、予想通りではあるが数量的データによって確認された。一方、アクセントに関してはいずれの集団でも強固に土地の特徴(無型アクセント)を持していることが指摘される。共通語と方言の場面による使い分けは、アクセントを除いてはほぼ完全に共通語化ないし両形使い分け現象が観察されたが、少数の語彙や文法項目では、改まった場でも無意識的ないし主体的、積極的な方言使用も認められた。都市部では方言の使用が少なくなっているものの伝統的な言葉として理解し、場合によっては評価しているという新しい現象も見られた。 以上の言語事実と話者の帰属集団関係のほか、さらに現代的テーマとして、話者の性格、信条、言語意識、態度との相関についても興味あるデータが多く得られているが、この本格的な分析は今後の課題として残されている。
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