本年度は三カ年にわたる本研究の最終年度であるので、まず前年度までに調査・収集のできなかった東京都立中央図書館所蔵の東京資料の一部、および、国立音楽大学附属図書館竹内道敬寄託文庫所蔵の富本節関係番付けの調査・収集を行ない、ひとまず終了とした。三年間に調査・収集した富本節正本・稽古本は、上記二ヶ所の他、東京芸術大学附属図書館、東京大学教養学部黒木文庫、上野学園日本音楽資料室、上田市立図書館花月文庫所蔵、東京都立中央図書館所の加賀文庫蔵、および架蔵の合計936点にのぼる。これらを書誌的内容によって整理分類した。本名題(内題)で五十音順に並べて整理し、刊記、奥書、識語、版外、丁数、一面行数等を一覧表にして報告の小冊にまとめた。同じ豊後節系浄瑠璃として、常磐津節と比較した場合、かなり量的に少ない上、現在はほとんど演奏されていないので、近い将来途絶える恐れが大きい。富本節は常磐津節から分かれて成立し、清元節は富本節から分かれて成立したもので、いわば常磐津節と清元節の間に位置し、したがって、曲調も中間的な性格であり、両者から挟まれている内に、勢力減退したものと思われる。また、二代目富本豊前太夫は名人と言われた人で、富本節の全盛期を形成したが、この二代目の活躍があまりに長期に渡っていて、その間に有力な後継者が育たなかったことも、その後の富本節の発展を妨げる結果となったように思われる。しかし、富本節の芸能史的意義、価値はまさにそこにあるのであって、近世後期の浄瑠璃の中で、特に二代目豊前掾の活躍が大きい.今回の報告以外に、富本節正本・稽古本が存在する可能性が高い。その意味で、今回の報告は、中間的報告である。
|