研究課題/領域番号 |
05451093
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡 道男 京都大学, 文学部, 教授 (40025052)
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研究分担者 |
南川 高志 京都大学, 文学部, 助教授 (40174099)
山下 太郎 京都大学, 文学部, 助手 (90239971)
中務 哲郎 京都大学, 文学部, 助教授 (50093282)
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キーワード | ギリシア・ローマの叙事詩 / 歴史意識 / ホメロス / ヘシオドス / ウェルギリウス / ルカヌス |
研究概要 |
叙事詩はもとより詩的虚構であって歴史叙述ではないが、その素材が神話伝説であれ歴史事件であれ、詩人の独自の歴史意識が働いて素材を詩へと昇華させる。ヘシオドスは天地開闢から神々の誕生を系譜の形で描き、神々の時代から現代の人間の時代への移行をエポック概念で説明することにより、歴史意識をもった最初の詩人とされる。しかし、それに先だつホメロスも、トロイア戦争というひとまとまりの出来事を語りつつ、数々の詩的技巧で因果の糸を溯らせ、宇宙の始まりの頃の出来事をも語りこむ。あるいは、ムーサ(詩神)を呼び出すことにより何百年も昔の出来事を眼前のことの如くに語り、過去と現代を結びつける。そこには明確な歴史意識が見られることが明らかになった。この二詩人の影響を強く受けるウェルギリウスは、読者が既に知っている過去の出来事を、主人公のアエネアスは冥界の霊から未来の予言として聞かされる、という不思議な語り方をする。ウェルギリウスは過去の語る詩の中で未来を予言することにより、読者が生きる現代も語り、ひいては、叙事詩の主人公と読者のつながりを通して、過去・現代・未来にわたるすべての人間の存在を語る意志を示ししていることが考察された。 ウェルギリウスは神々の定めた運命によるローマの建国とその永遠の世界支配という思想を打ち出したが、敗者の描き方を見る限り、ローマの平和にも陰の部分があることを意識していたと考えられる。事実、百年後のルカヌスは内乱の平定からローマ帝国の成立に至る歴史を世界崩壊の過程ととらえて『パルサリア』を創造したのである。ギリシア・ローマの叙事詩を一貫して流れる伝統、その中で詩人の独自の歴史意識がそれぞれ個性的な詩を生み出してきたことが本研究によって明らかにされた。
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