研究概要 |
本年度の実績は以下の通りである. 1.企業(株主)と逸脱行為を行う取締役・従業員の関係を分析するモデルとして,経済学の3つのモデル,すなわち(i)プリンシパルエイジェンシーアプローチ(ii)繰り返しゲーム(iii)取引費用の経済学のモデルを比較検討し,(i)のモデルが適切であることを見いだし,それによるモデル構成を試みた.さらに,犯罪社会学における組織体犯罪の議論の経済学的解釈を試みた. 2.民事法的観点では,取引面と違法行為に対する不法行為責任の両面から検討している.第一に,取引面での企業の違法行動のコントロールに着目した.そこでは企業と取締役の間における代理関係や信任関係の経済学的モデルを現在検討している.第二に,企業の不法行為責任の観点から,民法709条の企業責任はむろんであるが,とくに715条の使用者責任の根拠について経済モデルのアイデアを得た. 3.独禁法に関して,専らアメリカの反トラスト法の文献や判例の研究および電話や航空機などの産業における規制緩和の諸例から,分析モデルを抽出した.つぎに,わが国の公正取引委員会の年次報告を用いて,同委員会による各種の決定や処罰の統計を作成し,データの入力を行った.これをもとにモデルによる分析を行っている. 4.企業責任の哲学的基礎の問題に関しては,まず企業内の秩序のタイプを階層型と分権型とに区別し,それに対応して個人の位置づけを捉えた.このような区別によって,企業内の人間が行なう活動の結果が,企業責任にとっていかなる意味をもつこととなるかが明確にされた.
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