本研究は平成5年〜6年度の2ヵ年をかけて、現在おおきな変革を経ようとしている日本的雇用システムについて裁判例を素材に法学的考察を加えようとするものである。 平成5年度においては過去10年における膨大な量の裁判例(約1000件)について、研究分担者が定期的に共同討議のうえ、裁判例の事実関係、法的争点、判示事項を整理し、これにキーワードの付すという作業を行った。さらに、研究補助員を使って、キーワードを付された裁判例をコンピュータに入力し、種々の観点から整理・分析を可能とするためのデータベース化を進めた。 データベースの作成と平行して、データベースを用いた裁判例の分析および検討にも着手した。具体的には経済変動に伴って労働条件を変更する際に用いられる就業規則の不利益変更についての裁判所の形成した判例法理(就業規則の不利益変更が合理的なものであれば反対するものもこれに拘束される)の内容・発展の系譜・問題点等の分析や、労働時間短縮が国家的課題となった現在、注目を集めている年次休暇に関する判例法理の展開、労働市場の国際化によって新たな問題が生じつつある外国人労働者に関する裁判例等についてデータベースを活用した検討を行っている。このような検討の過程ではキーワードの設定について改善の余地があることが判明するといった有益なフィードバック効果もあった。 来年度は引き続き裁判例の整理・分析・データベース化を行うとともに、日本的雇用システムを形成している種々の法理の展開と変容についての検討を深め、最終的には将来の立法政策的課題の提示を目指している。
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