わが国おける公務員の人事異動を通じたキャリア形成は、大きく分けて二つの意図ないし観点から行われるものと推測される。一つは、人材育成と言う観点であり、もう一つは各省庁間や政府間における人的ネットワークの構築という観点である。(場合によっては、政策コントロールという側面が加わるかもしれない。)前者には「優秀な」公務員像が暗黙のうちに前提されているかもしれない。あるいは、人事担当部局が適正と判断したキャリア形成プランが存在するのかもしれない。後者の観点には、人事における縦割り行政の弊害の是正という意図も含まれているであろう。しかし、こうした意図は果たしてよく実現されているのであろうか。以上のようなキャリア形成を軸の一つとしてきた日本の人事行政システムはどれほど有効に機能しているのであろうか。本研究は、国および地方公共団体の上級職員を対象として、そのキャリア形成を軸にしながら、最近における日本の人事行政の特質を明らかにしつつ、その有効性について実証的に検討しようとするものである。本年度は主として国家公務員を対象として、キャリア形成の実体的把握を行う作業に重点を置いた。具体的には、昭和47年から平成4年にかけて公刊された『内政関係者名簿』(地方財務協会)に基づき、旧内務省系の省庁、すなわち、警察庁、自治省、建設省、労働省、および厚生省のいわゆるキャリア組の人事異動をすべてデータベース化する作業である。この作業には膨大な時間と労力を要したが、平成5年度中に平成4年入省庁分のキャリア組の人事異動についてすべてデータベース化することができた。このデータベースは、次年度以降の作業である【.encircled1.】キャリア形成の具体的な契機となる人事異動について、その異動の「理由」とパターンの解明、【.encircled2.】異動のキャリア・デベロップメント等に対する効果の実証的検討の基礎となるはずである。 また、本年度は、警察庁をはじめ5省庁の人事担当部局を中心に、その人事政策について様々な観点からヒアリング調査を行い、多くの知見を得た。この経験的データと先の事実データを組み合わせることにより、来年度において、日本の中央省庁におけるキャリア形成の実態と、その視点から見た人事行政システムの有効性について、綜合的な考察を加えることが可能になったと思われる。
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