本研究を企画した平成4年度はいわゆる「バブル景気」が崩壊し、日本経済が戦後まれな長期的でしかも深刻な不況を経験する出発年度となった。したがって、研究企画当初の見込みと研究対象の実態が大きく異なる面が生じてきた。たとえば、本研究の課題である「下請・系列取引」関係に関しては、日本経済がバブル景気から未曾有の不況に転じ、さらに円高の定着によって、むしろ「親企業」の側からの下請再編ともいうべき事態が、かつてない規模と質において行われてきた。この結果、中小企業の多くは否応なく「自立的」な発展方向を模索せざるを得なくなった。中小企業をめぐるこのような環境条件の変化は、本研究の出発段階では予想できなかったことである。そこで、平成6年度の研究においては、ことに中小企業の「自立的成長」を近年の海外直接投資、いわゆる「国際化」の動きと関連させて考察することを主眼に、研究・調査を進めた。 平成6年度の本研究では、「下請・系列取引」関係にあった中小企業であって現在は国際的な生産展開を行っている事例を中心に分析研究を進めた。対象として取上げた中小企業は、必ずしも「下請・系列取引」から離脱し「自立化」の道を歩んでいるとは限らないが、いずれにしても従来的な下請型中小企業とは質的に異なった性格の中小企業として捉らえることが可能である。そして、そのこと自体が中小企業の「自立的成長」のひとつの経緯を示している。すなわち、それら国際展開を行っている中小企業に共通するのは、第1に生産に関して日本国内と国外の機能分担=分業化を進め、国内にはより高次の生産機能やあるいは企画開発・設計機能を残し、国外には量産機能を移管するといった対応を行っていることである。このことは中小企業の「自立化」に他ならない。本研究の実績は、このような共通性と「自立化」の可能性を、事例に基づき豊富に明らかにしたことにある。
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