平成5年から3ヵ年間にわたり実施された本研究は、経済成長にとって多大の貢献をなし、またそれ故に欧米先進工業諸国から「日本経済成長の秘密」として注目を集めたわが国の中小企業を、主に中小製造業に焦点を当て、特に昭和60年のプラザ合意以降の急速な円高の下で生起し始めていた下請・系列再編成と中小製造業の「自立化」に即して実証研究を試みたものである。本研究の狙いは、「下請・系列取引」の下にあった中小製造業が、日本経済の成熟化、国際化を含む経済環境条件の大きな変動の中で、「親」企業の側からする下請・系列再編成に翻弄されるのではなく、中小製造業の側から主体的な「自立化」を果たすことによって、日本経済の新しい成長に寄与し、国民生活の福祉に貢献する道を探ることにあった。 しかし、そのためには本研究において、中小製造業が如何なる経済環境条件の下で、どの様に企業内経営資源を活用し、また外部経済を利用して「自立化」を果たすべきであるのか、またそのための政策的な課題は如何にあるべきか、という諸点をわが国中小製造業の存立構造と「下請・系列取引」関係変容の実態分析に立脚して明らかにする必要があった。しかし、バブル経済崩壊以降の厳しい経済不況、急激な円高の進行、大手製造業の生産拠点海外シフト、逆輸入の増加、産業「空洞化」などといった新しい経済的環境の生起は、本研究の課題である中小製造業の「自立化」の実態を複雑なものにしていた。したがって、本研究最終年度に当たる平成7年度の研究においても、研究の構想当初には大きな比重をおいていなかったそのような新しい経済的環境を考慮に入れ、自立的な成長を遂げつつある中小製造業のヒアリングを行った。その際に留意したのは、とくに東アジア市場とそれら中小製造業との関連である。そこで、本調査では(1)典型的な中小企業であり、かつ下請型の受注産業である金型製造業に焦点を当て、金型製造業における「下請・系列取引」変容の実態を明らかにすること、(2)金型製造業の最終ユーザーである自動車、家電産業での海外生産シフトの実情、(3)金型製造業の直接のユーザーである各種成形産業の国内生産拠点の最配置と海外生産シフトの実情、(4)金型製造業におけるそれらユーザー産業の動向への対応、(5)金型製造業における経営資源動員の実態と海外シフトへの対応、などを企業ヒアリング、文献調査に基づいて明らかにした。そこで得られた知見は、経営資源に占める研究開発並びに技術競争力はもちろん、従来わが国の中小企業相互間の取引において多くみられた所謂「取引ネットワーク」を創り上げ得るか否かが、「自立化」と企業成長に大きくかかわっているということである。しかも、そうした「取引ネットワーク」は、成功企業にあっては東アジアを含む外部経済の利用として行われている。本研究で得られた中小製造業における国際的な「取引ネットワーク」の構造は、今後の厳しい国際的競争に耐え、わが国の中小企業が「自立化」を遂げて成長・発展する軌道に乗るための必須の条件であると考えられる。こうした点の実態解明と、その理論的な分析が本研究の成果といえる。
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