本研究においては、新たに作製された金融市場分析のためのデータセットに基づいた実証研究と理論的分析によって、(1)金融市場の構造変化の実態、(2)それに対応した金融政策の変化と展望、(3)金融機関経営と金融制度のあり方、等についての分析と提言を得ることが出来た。まず(1)に関しては、過去40年間に亘る金融市場のコストや収益構造がいかに変化してきたかを詳細に分析した結果、金融自由化の影響の実態が明らかになった。またその過程の中で、金融政策や諸規制の役割と実態がいかに変化してきたかを実証的に把握することが出来た。次にその分析に加えて、(2)詳細なデータに基づいた1980年代の金融政策についての実証分析を行い、バブル期の金融政策の反省からの教訓を理論的、実証的に総括している。また、金融政策のあり方については合理的期待理論の発展を基礎とした最新の理論的分析も行われ、(1)の分析とも併せて、自由化後の金融政策のあり方についての明確な展望と提言が得られている。(3)については、(1)の分析を基礎とした諸規制の役割の変化の実態を分析し、自由化後の市場環境に適した規制、監督のあり方を含む金融制度の方向性、その下で金融システムの安定性の基礎である、各金融機関の健全性を促進するための経営のあるべき姿等についても分析を行い、多くの展望と提言が得られている。 全体の結論の要点としては、新たな競争的市場環境の下での自己責任に基づく金融機関のリスク管理体制の確立、及びそれを促進するための行政サイドの市場メカニズムを利用した監督体制への移行、安定的経済環境を提供するために、経済主体の合理的行動を前提として安定的貨幣供給を基礎とする金融政策の必然性と必要性が、理論的実証的に明らかになった。
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