研究概要 |
1.樋口は初年度に着手された自己組織性的機能的連結組織の構想を基に、大規模稲作複合経営農家を構成単位とする当該組織の実現化について考察し、次の点を明らかにした。第一に、当該組織は自己組織性的展開を前提にしているため、その発足に当たっては、本来的に、第三者コーディネーターを必要としない。しかし、大きく自己組織性的環境から逸脱することなく、便法としてコーディネーターを介在させ、必要な行動を促すことは、当該組織の実現化を促進する補助的方法として許容される。第二に、自己組織性能の点から、コーディネーターに求められる基本的機能は、権力的機能による選別や候補者の個別的後押しではなく、横から「揺さぶり」をかけること(“けしかけ")による組織形成の媒介機能(「シェ-ク」型機能)である。第三に、現代の多重組織風土を前提にした場合、そのシェ-ク主体は間接的組織環境に位置を占めている関連研究集団に求められる。 2.本間と長谷部は初年度に企図された大規模稲作複合経営農家調査を実施するとともに、それを基に実証分析を行い、次のような点を明らかにした。第一に、個別経営レベルでは達成が難しい潜在的経済成果の多くは、(1)利潤機会(需要側の情報),(2)技術・資産(有形及び無形資産),(3)制度(各種補助事業)の利用可能性に規定されており、これらを「紐帯」とした「連結の経済」の具体化によってその実現が可能である。第二に、事前的データの多くは、こうした要因の利用可能性に関する農家の期待ないし予見を反映したものであり、その現実化如何が事後的データとの違いを生じさせている。第三に、「連結の経済」にその経済的根拠を持つ当該組織の維持・発展を大きく左右するのは、「退出のリスク」であり、成員間での有効なシェアリングシステムの構築と成員の一時的な退出によって陳腐化しない「頑健な紐帯」の確立が重要な課題である。
|