本年度は研究の第1年度であり、資料収集を実施し、問題意識の整理を行った。 1)「居住差別」の概念については、居住にかかわる全ての過程-住宅の入居・取得・居住・管理運営において、「偏見」「嫌がらせ」「不利益を受ける」等の段階がある。またそれが社会的慣習として行われている場合、制度自体が差別をもっている場合がある。特に住宅市場の調整が難しくなると社会的弱者に対する居住差別は厳しい形で現れる。 2)居住差別の実態は、社会的弱者といわれる女性・外国人(少数民族)・障害者・高齢者そしてこれらの人々の結果でもあるホームレスの人々によって異なっている。 3)家の無い人々(ホームレス)については、1980年代に政府の公的介入を著しく縮小したアメリカ、公営住宅政策の解体を行ったイギリス、さらには東西の統一を実現したドイツにおいて急激に増加している(日本においても社会的不安材料となってきている)。これらの国では民間非営利組織が大きな役割を果たしている。 4)社会的弱者に対する居住政策としては、“住みわけ"と“ソーシャルミックス"とがある。外国人(少数民俗)居住については、各国ともに自然発生的な“住みわけ"によって各々のコミュニティーで相互扶助、利益の保持が行われる。これに対して、ハンディキャップをもつ人々をも含めたコミュニティーを意識的に形成しようとする“ソーシャルミックス"が展開されている(デンマークの事例収集)。他方、シンガポールでは民族毎の“住みわけ"から、公共住宅政策において“民族混合居住"の方向を打出している。
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