本研究は、「社会的弱者」といわれてきた人々について、居住の困難、あるいは居住差別の実態を明らかにし、これに対する対応として公的あるいは民間支援策を探ることを目的として実施した。研究においては、居住差別の定義及び高齢者、障害者、外国人、子ども、そしてホームレスの人々について国内外の資料収集、ヒアリング等を行い、生活科学、家政学の課題についても検討してきた。しかし、最終的な報告段階では、これらの中で最も小数であり、かつ居住状況が最も厳しい状況におかれているホームレスの人々を中心にまとめている。それは同時に、ホームレスの人々への新たな支援が、欧米のみならず、日本において展開されているからである。したがって、報告書の課題名を「ホームレスの人々の居住困難と居住支援」とするのが最も適切ではあるが、当初の研究課題のままにしている。内容は次の通りである。(1)イギリス及びEU諸国におけるホームレスの人の実態調査と政府の対応と、民間組織の支援、特に生活自立支援と結びついた居住支援の新たな展開。(2)E諸国のホームレスの人々への支援を行う組織FEANTSAの4研究報告の紹介。ホームレスの人々の実態、居住の権利、ホームレス法と各国の対応。(3)東京山谷のボランティア組織ふるさとの会の活動を中心に、ホームレスの人々への支援の特質、ボランティア参加者の意識調査をまとめている。(4)イギリス最大のホームレス支援の民間組織であるシェルターについて、設立経過から、活動の展開、組織・財政等、詳細に紹介している。以上を通して、日本におけるホームレスの人々の支援の可能性として、第1に実態の把握の重要性、第2に自立支援との結合の重要性、第3に公的支援と共に、民間非営利組織による支援の役割、第4にボランティアと路上生活者の新たな関係が成立してきていること、第5はこの活動は生存権の確保にとどまらず“福祉文化の創造"であることを指摘した。
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