本研究の主目的は、野球の「よい打撃」について具体的・本質的に理解を深めること、そのためのスキルを解明することであり、またそれらの研究のための研究方法を探ることである。副次的な目的として、実験で得られた打球に関するデータを利用し、打球の飛翔コースについて、空気抵抗の影響がどの程度のものかを知ることも取り上げた。後者の目的のために、打球の初速から計算した落下地点を比較すると、得られたデータから算出した真空中の飛距離の平均96.7mに対し、実際の飛距離は78.8mであった。また、進行方向に対する垂直方向へのずれは平均で20.0mであった。 主目的に対する主な結果は、次の通りである。(1)スイング全体を通してのバットの軌跡は、水平面への投影図で日本人全被験者が三日月型を示したのに対しキューバ人被験者はたまご型を示し、後者のほうが投手方向に延び広がっていた。(2)振り出しからインパクトパターンまでの時間は、キューバ人被験者が最も短く、短い被験者では、振り出しでバットの軌跡が水平・鉛直両面においてグリップ・エンド側を底辺とする三角形か、扇形を2つその頂点に接合点として重ねた形でその接点がヘッド側にあるが、長い被験者では接合点がグリップ・エンド側にある。(3)肩や腰の回転の時期について検討した結果、日本人被験者のパターンは振り出しで腰の回転が先行しているのに対し、キューバ人被験者のでは、腰の角度は振り出しから肩の回転が進んでも変わらないが、インパクトの30msec前ぐらいから角度が小さくなり短時間の内に腰の回転が行われ、肩の回転が先行していた。(4)キューバ人被験者はその他、適度なインサイド-アウト適度な縦回転の振り出しであり、また、振り出しで手首関節中心の運動方向が肩-肘-手首平面の表側で徐々にその平面の垂直方向近く変わっていく方向を持っていた。これらの特徴は、日本人被験者のある被験者にも共通するものである。
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