テレビを見るには、多くの前提となる知識が必要である。今年度の研究では、子どもがテレビを見られるようになるために必要な知識としてナレーターを取り上げた。子どもはナレーターをどのようにして認識して行くのか、大学生に対する回想法によって解明を試みた。大学生のにテレビの難しかったことを回想させると、「できるかな」の主人公であるノッポさんに関するものが多い。この番組はNHK教育放送で21年間にわたって放送されており、大学生にとって接触経験率の高かった番組である。この番組に対して感じた不思議さを大学生190名に記述させた。その結果、大学生の11.1%がノッポさんを男か女か迷った経験を持っていた。また、40.7%が音声と映像の組み合わせを迷った経験を持っていた。迷った時期は小学校低学年までが多かった。 なぜ、このような混乱が生じたのか。この番組では、2つの音声と2つの映像が呈示されていた。映像はノッポさん(主人公)とゴンタくん(動物)である。音声はゴンタくんの鳴き声とナレーターの声である。通常の番組のように単純に音声と映像を組み合わせると、組み合わせを間違えるのである。主人公のノッポさんが、話さない役回りだったためである。 回想の分析より、子ども時代に音声と映像の組み合わせをさまざまに迷った後、(1)主人公の口元に注意する、(2)ナレーションの話す内容が第三者的である、ということに気づいて、初めて画面の外に誰かが存在していることに気づくのである。子ども一人で認識できるのはここまでである。この段階で、ナレーションや撮影という知識が必要となるのである。
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