本年度は主にスターバースト銀河と遠方の小規模銀河について研究を行った。小規模銀河団に含まれている重金属は、銀河が誕生した時の激しい星生成活動に引き続いて起こる超新星爆発によって作られ、銀河間空間にまき散らされたと考えられている。現状では銀河が誕生したz=4の時代を観測する事は出来ない。銀河は、近傍のスターバースト銀河は誕生したばかりの銀河に似ており、これを観測する事で銀河誕生時に何が起こりえるかを調べる事が出来る。そこで、我々はX線天文衛星「あすか」を用いて、最も近傍で有名な銀河であるスターバースト銀河M82を詳細に調べ、どの程度の質量のプラズマを放出し、その温度や重金属量は幾らであるかを決めた。その結果、スターバースト銀河で特徴的な2型超新星爆発から期待される大量の酸素輝線はほとんど観測されなかった。一方、小規模銀河団で観測される、鉄についても量が少なかった。一方で、珪素や硫黄は大量に含まれる事が分かった。この結果は、小規模銀河団の重金属の起源として単純にスターバースト銀河を考える事は出来ない事を示した点で非常に重要である。また、小規模銀河団では、そのX線輝度分布の広がりを説明する為に、重量エネルギー以外の追加熱源が必要であると考えられている。スターバースト活動によって作られる高温プラズマはその有力候補である。しかし、M82で観測されたプラズマの温度は0.5-1keVであり、小規模銀河団のプラズマを暖めるには温度が低すぎることが分かった。さらに、我々は「あすか」を用いて、遠方の小規模銀河団としてMS0839.8(z=0.194)を観測した。このクラスの銀河団のX線観測としては、これが最も遠方の例である。この観測の結果、温度及び重金属量共に近傍の小規模銀河団とはほとんど違いが見られなかった。この結果は、z=0.2から現在まで小規模銀河団は大きな進化をしていないことを示している。
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