弱い相互作用による中性子スピン回転の実験では、中性子スピンが、原子核標的内で回転する角度θを中性子偏極保持磁場に対する射影角に変換し、その角度を偏極ヘリウム3フィルターで解析する。初年度では、中性子スピン操作の基礎研究のための予備実験を行った。この実験では、偏極中性子をランタン原子核に入射し、P波共鳴に於ける中性子スピン回転の測定を行なった。結果は、弱い相互作用によるパリティ混合理論と矛盾していなかったが、最終結果を得るためには系統誤差をより小さくする必要があることが分った。特に、中性子スピンを、スピン移送系から磁気的に分離された標的系へ非断熱的に移行させる際の精度が問題となる。この目的のため、スピン移送系を構成するスピン保持用コイルを新しく設計するとともに、標的核とスピン保持用磁場を分離するためのニオブ超電導箱と、それを転移温度以下にする液体ヘリウムクライオスタットを製作した。次年度では、中性子スピン回転の実験の更なる精度向上を目指して中性子スピン移送系と、中性子スピン解析のためのヘリウム3フィルターの改良を行なった。中性子スピンは最初ビーム軸方向を向いているが、標的入射直前に水平面内で横方向を向いている必要がある。このため移送系の磁場を断熱条件を充分満足する様に設定しなければならない。これまでに判明した断熱条件の厳しいケ所を、移送用コイルを増強することで改善した。また、スピン回転角の検出感度は、ヘリウム3原子核の偏極率に大きく依存する。偏極率はヘリウム3ガスを封入するガラス容器の素材や、製造法、洗浄法で決まってしまう。今回は特に洗浄法の開発を行い、優れた特性を持つヘリウム3ガラスセルを安定して供給できる様になり、中性子スピン解析系の統計精度の向上ができた。
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