研究概要 |
前年度では実際に分光システムがうまく働いて実験が可能であることがわかった。今年度は,高エネルギー物理学研究所フォトンファクトリーに実験装置を持ち込み,実験を行った。ビームラインはBL2B,BL3B,BL19Bであった。励起エネルギーは400-1000eV,50-250eV,100-100eVであった。物質は,シリコン,ポーラスシリコン,窒化ボロンなどの半導体から,ニッケル,YNi_2B_2C,酸化チタンなどの遷移金属化合物,酸化セリウムなどの希土類化合物にわたるまで様々な物質について測定を行った。その結果、今回の研究で特に以下のことがわかった。 (1)軟X線発光は選択的な内殻準位を励起するために,価電子帯のうち,特定な原子のみからの発光スペクトルを観測する事になる。従って,特に多元系の物質の研究に有効である。光電子分光では遷移金属化合物の3dや希土類の4fなどの状態密度を知ることができるが,BやCの様な軽元素の部分状態密度を知ることは極めて難しい。 (2)軟X線発光実験では,光電子分光の時に必要となるような真空中での特殊な表面処理がいらない。また,絶縁体でも,いわゆるチャージアップする現象が生じない。光の平均自由行程が長いため,あまり表面に敏感ではなく,バルクの実験が容易である。 (3)光電子分光では,電子が励起された後の励起状態の電子状態を測定することになるが,軟X線発光実験では,励期状態を測定することになる。これは,その他の低エネルギー物質実験との整合性のうえで,重要なことである。
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