研究概要 |
金属・非金属境界領域に位置する金混合原子価錯体M_2Au_2X_6(M=Rb,Cs;X=Cl,Br,I)について、高圧下X線回折実験、単結晶偏光反射スペクトル、^<197>Auおよび^<129>Iメスバウアー分光実験を行い、次に示す成果を得た。(1)Rb_2Au_2I_6およびCs_2Au_2I_6の単結晶偏光反射スペクトルの測定により観測された三種類のAu^1-Au^<III>間電荷移動吸収帯を群論を用いて帰属し、またスペクトルの偏光特性の解析よりAu^1-Au^<III>間電荷移動が二次元的であることを明らかにした。(2)高温高圧下X線構造解析により、Cs_2Au_2X_6(X=Cl,Br,I)およびRb_2Au_2X_6(X=Br,I)の詳細なP-T相図を完成させた。Cs_2Au_2X_6では、2種類の正方晶および1種類の立方晶が共通して存在する。金属領域で起こる圧力誘起正方晶(I)-正方晶(II)転移はAu^<II>状態(d^9電子配置)の出現に伴うヤーン・テラー変態に起因するものと考えられる。正方晶(II)では、Cs_2Au_2I_6のAuI_6が伸びた八面体であるのに対し、Cs_2Au_2X_6(X=Cl,Br)のAuX_6は縮んだ八面体である。ヤーン・テラー変態による縮んだ八面体の存在は極めて稀である。また正方晶(II)においては、Cs_2Au_2I_6のHOMOがd_x2_<-y>2であるのに対しCs_2Au_2X_6(X=Cl,Br)のHOMOはd_z2であることから、それぞれ二次元伝導体および一次元伝導体として振舞うものと推定される。(3)単結晶^<197>Auメスバウアー分光における核四極子分裂の解析により、Au^1とAu^<III>の核の周りの電場勾配の符号を明らかにし、Au^1,Au^<III>の化学結合に寄与する混成軌道について詳細な知見を得ることができた。また^<129>Iメスバウアー分光においては、Cs_2Au_2I_6における架橋ハロゲンの電荷およびAu-I間の化学結合について極めて定量的な情報を得ることができ、Cs_2Au_2I_6の-Au^1-X-Au^<III>-鎖の電子状態について詳細な知見が得られた。
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