探針と試料表面とが接触する接触モードでは、周期的な構造である格子像は見えても、非周期性の原子レベルの欠陥や吸着物が見えないという事実を見いだした。この原因は、数nNの斥力が探針と試料表面との間にかかるため、依然、接触部分の原子数が数個以上になり、周期的に存在する構造しか見えなくなるためと考えられる。探針と試料表面とが接触しない引力領域で測定を行えば、探針先端1個の原子と試料表面の1個の原子との間に働く単一の原子間力を測定できる可能性が高い。しかし、一般に、引力は長距離力であり、また、その大きさの距離依存性も小さくため、高い横方向分解能を実現することは困難である。さらに、引力自体が非常に弱い力である。したがって、静的な力の検出では感度不足のため、高分解能観察を実現することは到底不可能であろう。てこの共振を応用した変調法を用いることにより、力の検出感度を飛躍的に向上させることが可能である。そこで、周波数変調(FM)を利用した超高感度検出系を開発し、非接触モード(引力領域)での単原子観察の可能性を追求した。その結果、4×10^<-3>N/m程度の引力勾配領域で、lnP(110)劈開表面の格子像だけでなく、原子レベルの欠陥や吸着物の観察にも成功した。また、測定中に欠陥が動く現象や欠陥の生成も見いだしており、原子間力顕微鏡による真の原子分解能の実現と同時に単原子操作への画期的な前進とも考えられる。
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