本研究は、種々の光エネルギーで励起した固体表面からの光刺激脱離の動的過程を明らかにする目的で、以下の諸点を達成目標とした。 1)選択的に光励起した場合の励起原子の放出を測定することによって、光のエネルギーに対する依存性を調べ、励起状態原子の放出に対する外殻および内殻電子状態の寄与を明らかにする。 2)光脱離原子強度の基板温度依存性および光照射量依存性を測定し、原子放出に対する表面欠陥や熱エネルギーの影響を明らかにする。 3)シンクロトロン放射光のパルス特性を利用して、光脱離した原子の時間応答性を測定し、光励起された固体表面からの原子放出の動的過程を明らかにする。 4)LIF(レーザ誘起蛍光法)を用いた高感度検出系によって基底状態原子の放出の動的過程を明らかにする。 5)質量スぺクトル、オージェスペクトル、光電子スペクトル、の測定を併せて行うことによって、固体表面上の吸着分子や表面状態の原子放出に対する寄与を明らかにする。 このうち、本研究は以下の点を達成した。 1)励起光として、広いエネルギー範囲をカバーするシンクロトロン放射光とアンジュレーター放射光を用いた。励起状態アルカリ原子の放出は内殻電子状態だけでなく、外殻励起状態によっても生じることが明らかになった。 2)基底状態と励起状態アルカリ原子の脱離は、温度依存性、光照射量依存性、物質依存性など多くの点で、全く異なることが明らかとなった。 3)単バンチ運転を利用して、励起原子の光脱離の時間応答性の測定に成功し、脱離機構にはナノ秒の早い機構とサブマイクロからミリ秒の遅い機構の2種類があることが明らかになった。 4)KBrとKClにおいて、基底カリウム原子のLIF法での検出に成功した。また、UVSORからのパルス放射光とレーザーの同期時間を変えるこことより、基底原子の放出の時間応答性の測定に成功し、基底原子がナノ秒という早い時間スケールで脱離していることを初めて見い出した。これは、従来信じられていたどのモデルでも説明できない新発見であり、今後新しいモデルの構築が必要になった画期的な成果である。 5)光脱離と光電子分光実験を同一条件で行い、表面状態を確認しながら、光脱離の測定を行った。これによって、表面上の吸着アルカリの光脱離に対する影響を調べた。
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