強磁性、強誘電性そして高温超伝導に至る多様な機能性を発揮するペロプスカイト類縁構造をもつ3d遷移金属酸化物を電荷とスピンの複合系ととらえ、ドープされた正孔の電荷ダイナミックスを光学測定により研究した。これらの物質群は基本的に反強磁性絶縁体であり、化学的にドープされた正孔が遍歴的になるためには、少なくとも反強磁性長距離秩序が壊れることが必要である。本研究はド-ピングにより長距離秩序が破壊されても、短距離の秩序が残っている場合は、光学スペクトルの中赤外域に吸収帯が現れることを明らかにした。ド-ピングの進行とともに、スピン系が希釈されることに対応して、スペクトル強度が高エネルギー域から低エネルギー域の中赤外そしてドル-デ吸収帯に移行する。この局所的なスピン秩序の状況が、中赤外吸収を主体とする低エネルギー吸収強度を決めることが実験で示された。この結果は、強相関電子系すなわちモット・ハバ-ド系としての3d遷移金属酸化物の最大の特徴である。このようなスピン系の状況と光学スペクトルとの密接な結び付きが最もダイナミックな形で現れるのが高温超伝導Cu酸化物である。 平成6年度は、研究対象を更に拡張して、1次元Ni及びCu酸化物の合成、ド-ピングの試みを行った。高温超伝導体を特徴づけるのが2次元性とスピン1/2からくる量子力学的ゆらぎの効果だとすると、上記1次元系では更に量子ゆらぎが拡大されて、ドープ前の絶縁体においても量子スピン液体状態が実現していると期待される。μSRを主体とする実験によりY_2BaNiO_5、Sr_2CuO_3において、このことを実証した。ド-ピングの試みは合圧下の合成手法により、ある程度は成功したが、金属化するには至っていない。このような量子スピン液体状態が電荷ド-ピングにより金属化したとき、高温超伝導のような全く新しい機能性が出現する可能性があり、本研究は物性物理の新分野開拓の先駆けとなるものである。
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