スピン偏極した電子線を個体試料にあてて、原子の内殻電子を励起し、発生する特性X線を解析すれば試料に含まれる原子を特定できるのみでなく、さらにその原子の磁気的な偏極に関する情報が得られると考えた。強磁性体試料にスピン偏極した電子を入射したときの非対称度は、特性X線発生の遷移に与える原子準位のスピン偏極を反映すると考えられる。これを確かめるための装置を作成し、実験を行った。 スピン偏極電子線源としてはp型GaAsに適当なエネルギーの円偏光を照射して、発生する光電子を用いる。真空度6x10^<-8>Paの超高真空装置を自作し、清浄なGaAs(100)面にCsを蒸着し、数μAの光電流を一週間程度保つことに成功した。照射する円偏光は波長780nm(1.59eV)の半導体レーザー光を用い、1/4波長板を機械的に回転して右回りまたは左回り円偏光をつくり、光電子のスピンを光の照射方向または逆方向と反転した。この光電子を静電レンズ系で約10keVまで加速して試料に入射させ、発生したX線はBeの窓を通すてGe検出器で検出し、波高分析器を通しそのエネルギースペクトルをコンピューターに蓄積した。 典型的な強磁性体であるFeのK_α、K_β特性X線の非対称度はそれぞれ(3.1±3.7)x10^<-4>、(4.6±8.5)x10^<-4>となった。K_α、K_β線に関与するFeの2p、3p準位のスピン偏極は検出限界以下である。Feの3d準位が直接関与するL線は0.7keVのエネルギーで、Ge検出器では測定できない。そこでCoPd合金中のPdのL_<β2>(4d_<5/2>→2p_<3/2>、3172eV)、L_<γ1>(4d_<3/2>→2p_<1/2>、3328eV)について測定を行ったが、検出限界(3x10^<-4>)以上の非対称性は検出できなかった。現在FeのL線(軟X線)に感度がある検出器の整備を急いでいる。
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