我々は固体表面の磁性原子に適当なエネルギーのスピン偏極電子を入射し、発生する特性X線の強度を注意深く測定すれば試料中の元素を同定した上で、その原子のもつ磁気モーメントに関する情報が得られるのではないかと考え本研究を行った。そのためにGaAsを用いたスピン偏極電子線源を備えた超高真空チャンバーを設計製作し、次の3つの実験を行った。 i)スピン偏極電子線により発生させたFe、Co、NiのK_α、K_β特性X線の精密測定。試料の磁化方向に平行または反平行なスピン偏極度をもつ電子を入射させたときの差異は全く見られなかった。 ii)強磁性CoPd合金中のPdのL特性X線の測定。Pdの特性X線のうち4d→2pの遷移が関与するスペクトル線を分離同定できた。しかしながら入射電子のスピン偏極を反転させても差異は明らかではなかった。Co合金中のPdの4d電子の偏極がそれほど大きくないためと考えられる。 iii)FeのL殻励起の出現電位分光。検出は750Å程度のAlフィルターで低エネルギーの軟X線をカットしてチャンネルトロンで全軟X線を計測した。L殻励起に対応する微分ピークが検出され、しかもそれが入射電子のスピンを反転すると差異を示した。試料の磁化を反転した後入射電子のスピン偏極依存性は逆転して観測された。これによって定性的にはスピン偏極電子線による強磁性Feの出現電位分光のスピン依存性が実験によりほぼ確認されたといえよう。今後実験をより精密に行い定量的な結果を得るべく努力したい。
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