研究概要 |
イオンビームシャド-イング効果による固体内結合電子の格子位置分布解析には、高速軽イオンを用いるが、試料から放出されるγ線が2次電子収量の精密測定(ランダム方位に対する比で精度3桁以上)の妨げとなっていた。我々は、電子スペクトロメータの改良と加速器ビームトランスポート条件の最適化によってこの問題を解決した。特に、スペクトロメータの改良によって電子受容立体角を従来型の約3倍に上げる一方、γ線バックグラウンドを従来の測定に比べて相対値で1/(10)に低減することができた点は特記したい。さらに、前年度に取り付けた試料交換のための副真空槽により、加速器マシンタイム内に超高真空を保ったままでの試料交換が可能になり、このことが豊富なデータ量と測定における信頼度の向上につながった。 現在、Si,Ge結晶の結晶軸方向<100>,<110>,<111>および結晶面方向(100),(110)について、6および8MeV/uのH^+,He^<2+>に対する2次電子収量比(精度3桁)の測定を終了し、解析を始めた段階である。まず、シャド-イングを受けない電子数(1原子当たりの)Nを実験結果から求め、Nの結晶方位(チャネル)依存性と結合電子分布との定性的な対応を見い出した。さらにGeでは結合電子のみならず外殻(3d)電子分布がシャド-イング条件での2次電子収量に反映されることがわかった。 Siの場合に方位によってNの値が4を越えることから、チャネル内で非均一なイオンフラックスが結晶チャネルの中間付近に分布する結合電子と強く相互作用していることは明らかである。イオンフラックスを考慮した解析を行うために、我々は現在、マルチストリングモデルによるコンピュータシミュレーションを進めている。
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