高密度で規則的に双極子が配列した固体の励起子系での光と物質の非線形相互作用の新しい側面を探ることが本研究の目的である。このために本研究では物質系の巨視的な位相を光学的に検出する手段として時間分解の非線形干渉法をとりあげた。平成5年度はまずその第1段階として、モードロックチタンサファイアレーザーの第2高調波を光源とする時間分解非線形干渉の実験を行い、CuCl励起子分子の2光子分極の振動の観測を試みた。ここでは、対向する2本のパルスで波数0の励起子分子を2光子共鳴励起し、時間遅延τ秒後に入射させたプローブパルスの位相共役信号をマイケルソン型の干渉計に導いた。入射プローブ光と位相共役信号の干渉成分から励起子分子のコヒーレントな振動が観測された。この振動は励起子分子の長い位相緩和時間を反映し、60ピコ秒以上持続した。これにより、巨視的位相を検出するための手段である非線形干渉法の原理が実証された。これまでの励起子ダイナミックスの研究では、励起子や励起子分子の分布の時間変化を追及することが多かったが、この方法では、位相情報を直接見ることができ、物質系に内在するコヒーレンスを観測する新しい手法として意義のある成果である。励起子分子の励起密度がボーズ凝縮やモット転移の臨界点を越えた時にこの位相がどのような挙動を示すかということは興味ある問題である。このためには、パルスエネルギーを1000倍以上にする必要がある。そこで、チタンサファイアレーザーの再生増幅器を製作した。現在この光源を用いた実験を計画している。その他の興味深い系として、Cu_2O励起子及び擬1次元電荷移動励起子系の実験を開始した。
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