研究概要 |
本研究は、高温超伝導体の示す磁気的性質と、ミクロな量子系としての原子分子との相互作用の実験的研究を通じ、その態様を明らかにするとともに、高温超伝導体の原子分子の運動状態の制御への応用の可能性を探ることを目的とした、新しい視点に基づいた研究である。実験に使用するパルス分子線の基本的特性に関する研究[Kuze,Oshima,and Tanaka,J.Chem.Phys.195,400(1992)]を発展させ、今年度は、新たにレーザー誘起蛍光法による分子線の回転温度の測定を行ない、He中にシードしたNO分子について、2K以下の極低温が達成されることを示した[物理学会1993年10月、12pDA3]。またマクロスコピックな小磁石を用いて、高温超伝導体と磁気モーメントの相互作用についてモデル実験を行なった[Kuze,Tachikawa,and Onae,J.Appl.Phys.73,1320(1993)、および物理学会1993年10月、12pPSB35]。その結果、通過する磁束量が比較的少ない場合にはヒステリシス損により、また、多い場合には磁束フロー抵抗により渦電流損が生じ、運動する磁石の力学的エネルギーの大幅な減少が生じることが明らかとなった。超伝導体表面と相互作用を行なう原子分子の状態検出に際しては、波長可変のパルスレーザーとMCP(マイクロチャンネルプレート)検出器を用いる。従来、色素レーザーの励起レーザーとして使用してきた自製のエキシマーレーザーは高圧放電に伴うノイズが大きく、検出系への影響が問題であったが、今年度新たに導入したNd:YAGレーザーにより、この問題が大幅に改善された。現在、真空中でのNO分子線と超伝導体との相互作用の実験のセットアップを進めている。実験に用いる超伝導体試料の磁気的特性については、小磁石を使う方法と並んでヘルムホルツコイルを用いる方法を考案し、磁化曲線の測定などにおいてこれが有用であることが確認できた。現在、定量的なモデル計算が進行中である。
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