地球表層の二酸化炭素の循環を解明するために今年度は以下の研究を実施した。 1.平成5年度に引き続き、日本上空での航空機および大気球、太平洋上での定期船舶および南極昭和基地などの地上基地を用いた系統的試料採集を実施すると同時に、それらの試料の二酸化炭素の濃度と炭素同位体比の高精度分析を行い、地理的に広範にわたる変動と分布の実態を明らかにした。その結果、1991年の中頃より1994年にかけて、特に北半球において大気中の二酸化炭素の濃度の増加傾向およびその炭素同位体比の減少傾向が急速に鈍化していることを見い出した。この原因として、北半球の陸上生物圏の呼吸や酸化が光合成活動より相対的に弱まった、あるいはその効果に加え、北半球高緯度の海洋生物が通常より多くの二酸化炭素を吸収したことが考えられる。 2.炭素循環モデルを束縛するためには、地球規模にわたる二酸化炭素の濃度と炭素同位体比の実態に関する情報を必要とするために、これらの要素を系統的かつ広範に観測しているスクリップス海洋研究所、CSIRO、NOAA/CMDLと標準物質の相互検定を行い、各研究機関のデータを同等に扱えるようにした。 3.大気・海洋間および大気・陸上生物圏間の二酸化炭素と炭素同位体の交換を組み込んだ2次元大気輸送モデルとボツクス・デイフュージョン・モデルを開発し、大気中の二酸化炭素と炭素同位体比の時間的・空間的変動の実態をシミュレートすることによって、二酸化炭素の放出源と吸収源の強度を推定した。得られた結果は、陸上生物圏が正味として大気中の二酸化炭素の強い放出源となっていないことを強く示唆している。
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