本研究では、地球気候システムのなかでも大気熱源の中心域であり、アジアモンスーンと熱帯太平洋の大気・海洋結合システムの年変動の仕組みを理解する上でも重要な役割を果たしている熱帯西部太平洋でも対流活動と大気・海洋系における季節変化、季節内変動および、年々の変動とそれらの相互関連を調べた結果、以下のような事実が明らかとなった。 1 対流活動域の季節推移における突然の位置の変化(季節ジャンプ)が、毎年ほぼ決まった時期に、季節内変動の増幅を伴って起こっており、前者は東アジアにおけるモンスーン(梅雨)の当然の開始に、後者は、梅雨の突然の明けの現象を、同時に引き起こしている。 2 季節ジャンプ・季節内変動の増幅は、海面水温分布の季節変化と密接に関係し、大気・海洋系の非線形な相互作用が、対流活動・大気循環場の季節内変動の強弱に影響している。 3 経年変動は、この大気・海洋相互作用の強さによる季節ジャンプと季節内変動の振幅変調の結果として現れている。 また、気候の変動のうち、外部強制と自然変動の分離する試みとして、本研究では、順圧大気モデルに年周期を強制し、年周期間の非線形効果により、他の周期成分が励起されるかどうかを調べた。モデルを年周期で強制し、100年間走らせ、年周期を含まないランの結果と比較した結果、モデル大気の全エネルギーの値は時間積分後、約一月で飽和に達し、その後はある一定のエネルギー幅で1年周期で変動することが示された。スペクトル解析の結果、周期が約50日以下の短周期変動は周波数の-3乗則に従うレッドノイズとして特徴付けられ、周期50日以上の長周期変動のスペクトルは1年周期を含むホワイトノイズになることが示された。この結果から、気候システムにおいて卓越する季節内振動や年々変動は、大気の年周期振動成分間の非線形相互作用により励起される自然変動ではないことが示唆された。
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