研究概要 |
平成5年度には,天然の高度泥質変成岩をそのままの状態で高温高圧条件下におき,部分溶融させる実験を始めるとともに天然の岩石中の鉱物のより詳細な観察・機器分析を行った.その結果, 1.自由水のない場合でも理論通り,含水鉱物(雲母類)の脱水分解反応によって,0.4GPa程度の圧力下では700℃程度の低温条件でも部分溶融が起こることが確認された.すなわち,黒雲母は石英との境界部で反応し,Caに乏しい角閃石(直閃石-ゲードル閃石もしくはカミングトン閃石),カリ長石(成分にとむメルト)を生じる.黒雲母の内部など石英成分に乏しい所ではこれらの他にスピネルも生じている.またこの温度では明らかに鉱物の境界に沿ってメルトが発生していることが確認された.この圧力下では900℃までに黒雲母は消滅する.一方,スピネルの形成は,石英に富みシリカに過飽和な岩石に対する,従来の相平衡理論からは予想されなかった現象であり,これは粗粒岩石の部分溶融時の局所的な非平衡現象の反映であると考えられるが,今後の検討課題である.しかし天然の石英含有高度変成岩にはしばしばスピネルを包有したきん青石が出現するが,その成因は不明であった.上記の粗粒岩石の部分溶融時における局所的な非平衡過程によって,それが形成された可能性が指摘できる. 2.世界で初めて,高度泥質変成岩の部分溶融時に,メルトとともに形成されたと考えられるざくろ石の希土類パターン(累帯構造)を二次元的に分析した結果結晶の中心部付近に重希土元素が濃集し,かつ反復累帯するのが普通であることが判明した.その原因はまだ不明であるが,そのような現象の解明はマグマ成因論一般に大きな影響を与えるものと考えられる.今後さらに希土類元素の濃集した副成分鉱物である燐灰石やジルコンの岩石中での分布や形態変化を解析し,岩石の部分溶融時の希土類元素の挙動をモニターすることを計画している.
|