研究概要 |
岩石の部分融解の手掛かりになると考えられる鉱物組織を求めた結果,ザクロ石中の斜長石砲有物が最適であることが判明した.その理由は,1)ザクロ石も斜長石もともに広い温度・圧力条件下で安定であり,出現する岩石の組成範囲も広い,2)ザクロ石も斜長石もともに固溶体鉱物であり,形成条件に対応した化学組成をもつ,3)ザクロ石は大変硬く,変形作用によって破砕される可能性が低いので,その内部構造が保存されやすい,4)ザクロ石も斜長石も元素の結晶内拡散が著しく遅く,成長累帯構造が保存されやすい,等である.そこで天然の高温変成岩(スリランカ産グラニュライト,南極産片麻岩類,本邦の阿武隈変成帯竹貫片麻岩など)中のザクロ石を観察した結果,次のような共通した現象が見られ,それらの岩石がかつて部分融解していたことを強く示唆することが判明した.1)ザクロ石中には,マトリックスのものよりもカルシックで自形の斜長石が包有されている,2)そのような包有物をもつ部分のザクロ石にはカリ長石やリン鉱物が包有されることはほとんどない,3)またその部分のザクロ石のリンの含有量はそれ以外の部分に比べて著しく低い(それぞれ,0.05WT%程度と0.01WT%以下),ということである.これらの事実から,例えば,次のような連続脱水非調和融解反応が想定される. 珪線石+黒雲母+ソディックな斜長石+石英+リン鉱物±H2O=メルト+ザクロ石+カルシックな斜長石+ルチルこの反応にリン鉱物が関与していることから,希土類元素の挙動について新しい問題と視点が提起される.事実,例えば,ともに重希土類元素としてよく似た挙動をすると言われてきたエルビウムとイッテルビウムが,ザクロ石中でまったく異なった累帯様式を示し,異なる挙動をしたことが世界で初めて明かにされた.
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