研究概要 |
高温変成岩の平成・温度は,その岩石の最低溶融温度を優に越していることが多いが,それが実際に融けていたのかどうかを判断するための明確な指標を我々はまだ持っていない.そこでこの研究では,阿武隈山地や日高山地などに露出する天然の高度変成岩と火成岩とを詳細に比較検討し,それらに共通する記載岩石学的事実を抽出することと,それを天然の岩石の融解実験で再現することによって,高度変成岩の部分融解の判定基準を確立することを目的とした.特に今年度は室内における研究に重点を置き,泥質組成の高度変成岩中に部分融解の指標となりえそうな次の点を明らかにすることができた. 1 天然の泥質片麻岩をそのままの状態で出発物質とした高温・高圧実験:天然の泥質片麻岩をそのままチューブに封入し,5kbar以下の圧力で,750℃から900℃の温度範囲で部分融解実験を行なった.その結果,(a)理論的に予言されていた,自由水が関与せず,黒雲母の脱水によって誘発される部分融解反応を実験的に再現することができ,(b)このとき,岩石全体にまたがる反応ではなくて,種々の局所的な反応が進んでいることを確かめることができたが,これはむしろ天然での過程にもっとも近いものと考えられ,天然の岩石中の鉱物の産状の解釈に新しい視点を与えるものと考えられる. 2 ミグマタイト的な泥質片麻岩中の部位によるジルコンの形態・内部構造・組成の多様性:イオンマイクロプローブを用いた同位体年代測定に供されるジルコンが,ミグマタイト的な泥質片麻岩中の部位によって形態・構造・組成がどう異なるかを統計的に検討した.その結果,特に優白質部(ネオゾーム)には砕屑粒起源のジルコン粒ばかりでなく,新たに結晶成長したものが多産することなどが明らかになり,ジリコンの形態・内部構造・組成が部分融解の手掛かりになることがわかった. これらの成果は印刷論文として,あるいは学会における口頭発表として公表するつもりである.
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