研究概要 |
昨年度の研究で金属Ag,トリエチルガリウム,硫化水素を原料とする化学ビーム(CBE)法によるAgGaS_2のエピタキシャル成長では,成長速度の増大が第一の課題となることが明らかになった.そこでまず,成長の低温化により成長前駆体の基板表面での付着係数を増大させる方向で検討を進めた.しかし,200〜500℃の低い基板温度域では,成長層への硫黄の取り込みは全く見られないこと,さらに,原料として硫化水素に代えて単体の硫黄を用いた低温域での成長においても,同様に硫黄が全く取り込まれないことから,AgGaS_2の生成には,600〜630℃付近の比較的高い基板温度および過剰な硫黄原料の供給が必須となることが明らかになった. このようにIII-V族化合物半導体の成長と大幅に異なる結晶成長に関与する表面過程に関しての基礎的知見を得るために,原料の分解過程などの複雑な要素を含まず,しかも蒸気圧の高い硫黄を含まない類似の性質を有すると考えられるAgGaS_2について,単体のAg,Ga,Seを原料として分子線エピタキシ-成長を試みた.その結果,GaAs(100)基板上に基板温度450℃において,a軸配向したAgGaSe_2が得られた.この成長方位の傾向は,歪みエネルギーが最小になる方位が選択的に成長するというAgGaS_2およびCu系のカルコパイライト化合物で見られる傾向と一致することが明らかになった.さらにバンド端発光と考えられるフォトルミネッセンスを観測した.しかし,成長過程に関しては,不明な部分が多くさらに検討が必要と考えられる.
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