研究概要 |
本研究は,従来にない短波長域(紫外)で動作する次世代光デバイスの開発に向けた,新しいII-VI族混晶半導体の結晶成長技術の確立を目指したものである.本年度は昨年度に引続き,GaP基板上にZnCdSSe系半導体を分子線エピタキシ-法(MBE)で作製した.以下に,本年度の研究で得られた結果を示す. 1.GaP(100)just基板上に直線ZnSを成長した場合(成長温度330℃),成長層は三次元的で,しかも多数の双晶を含んでいることが,高エネルギー電子線回析(RHEED)観察の結果明らかになった.成長条件などを検討したところ,三次元成長は(100)から少し傾いたGaP基板を,双晶の形成は高温成長(490℃)ZnS緩衝層を用いることにより抑制されることを見いだした. 2.塩素(Cl)および窒素を用いたZnS(Se)のn,p型伝導型制御を試みた.n型は2×10^<18>cm^<-3>のキャリア密度が達成されたが,p型伝導は,本研究の範囲内では制御することができなかった.我々は,従来の研究でp-ZnSeを得ており,このことからZnSe系では,不純物添加構造に違いがあるものと考えられる. 3.1.,2.の結果を踏まえ,GaP傾斜基板上にZnS緩衝層を介して,Au/ZnS_<0.86>Se_<0.14>/Zn_<0.77>Cd_<0.23>S_<0.77>Se_<0.23>/ZnS_<0.86>Se_<0.14>:Clの金属-絶縁体-(n型)半導体(MIS)構造を作製した.従来のMIS構造との大きな違いは,ZnCdSSe量子井戸層を絶縁層と半導体層間に持つことで,これによりキャリアが効率よく閉じ込められ,発光効率が増加することが期待される.77Kにおいて電流注入発光を試みたところ,発光波長4000Åと紫外域での発光が観測された.この成果は,世界に先駆けて半導体による紫外発光を実現したものであり,また,ZnCdSSe系混晶半導体が紫外光デバイス用材料として高いポテンシャルを持つことを明らかにした点で重要であると考える.
|