多重量子井戸構造における量子化準位の共鳴/非共鳴現象と光学定数との関係を明らかにすることにより、低い光励起強度でも大きな光非線形性を起こさせる可能性を実験的に検証することを目的として、GaAs/AIGaAs系非対称結合三重量子井戸構造を設計し、MBE法により試料を作製した。下部電極をとるためにシリコンデルタドープ層を捜入した。この試料の構造のホトルミネッセンスと光伝導のスペクトルの外部電界依存性を調べた。三重量子井戸の構造としては、三つの井戸の基底準位が共鳴するものと、三つの内の一つについて励起準位を用いるものの二種類を作製したが、双方の試料で準位の共鳴によると思われるホトルミネッセンスのピークエネルギーとその強度の電界による変化が観測された。外部電界を印加することにより準位の共鳴・非共鳴遷移が起こるが、電子準位の混合が生ずることを反映して、三つの量子井戸を有する構造に特有の三つの特性波長は、ある電界強度では混ざり合うが、それより強いか弱い電界下では分離されることが明らかになった。光学的振動子強度を、電子と正孔の波動関数を矩形ポテンシャルと有効質量近似を用いて計算したところ、共鳴時には三つの井戸の波動関数が混ざり区別が無くなるが非共鳴状態では三つの井戸の波動関数がほぼ独立に振る舞うことが明らかになり、振動子強度もこの波動関数の変化を反映して共鳴電界を境にしてその強弱が入れ替わることが示され、実験結果と一致した。本年度の実験では励起強度を低く抑えることにより、主として構造によるスペクトルの電界依存性の変化を調べた。この結果、光学定数は強い電界依存性を示すことが明らかになった。今後、励起強度依存性を調べることにより光強度に対する非線形性を調べる予定である。
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