多重量子井戸構造における量子準位の共鳴・非共鳴現象と光学定数との関係を明らかにすることにより、低い励起強度でも大きな光非線形性を起こさせる可能性を実験的に検証することを目的として、GaAs/AlGaAs系非対称結合三重量子井戸構造をMBE法により作製し光学的特性を評価した。最終年度の平成7年度は前年度までの成果をもとに、光非線形性の実証を行うため、フェムト秒レーザを用いた透過光の励起光強度依存性を解析した。 まず、基礎実験として、He-Neレーザを用いた連続光によるホトルミネッセンススペクトルの励起光強度依存性を測定し、励起光の強度によってスペクトルピークが変化し、前年度明らかにした外部電界依存性との対応が得られた。すなわち、光励起により注入された電子と正孔の量子井戸間の遷移によって生ずる内部電界が三重量子井戸構造の準位の共鳴を引き起こすことが明らかになった。次いで、チタンサファイアレーザを用いフェムト秒パルスレーザによる共鳴励起を試みた。透過光強度は励起光に対して非線形に変化しある臨界値以上では励起光を強くすると透過光が逆に減少する負性特性が得られた。同様の現象は単一量子井戸構造やGaAsバルク材料では見いだされなかった。また、透過光の負性特性の励起光波長依存性を評価したところ、負性特性は三重量子井戸構造の特性エネルギーのうち、中間の量子井戸に対応するエネルギーで最も強いことがわかり、この強い非線形性が三重量子井戸構造に特有の現象であることがわかった。 以上の結果、三重量子井戸構造では準位の共鳴効果を利用することにより、バルク材料や単一量子井戸構造では不可能な弱い励起光強度できわめて強い光非線形性を出現できることが明らかになった。
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