研究概要 |
工学,理学,社会学等の諸分野において,システムの設計・運用を行い,あるいは現象を説明する数学モデルの妥当性を検証する際には,感度解析が重要である.しかし,感度解析の研究は,多くの異なる分野・国々において,独立に,異なる用語を用い異なる概念体系の下に(例えば,共役系,随伴系,摂動計算等々)分散して個別的に展開され,似たような着想が度々再提案されてきた.このような分野的・地理的・歴史的に分散した従来の諸研究,諸理論,諸手法を統合,整理し,本研究の研究代表者等が展開しつつある高速自動微分法の観点も加えて,「感度解析の総合理論」の体系を建設し,それに基づいて感度解析の汎用算法を確立し,それを実現するソフトウェアを作製し,計算実験によりその性能評価をすることが本研究の目的であった.結果として,所期の成果に近いものが3年間の研究期間中に得られた.まず,「非線形システムの感度解析理論の一般的体系」を完成し,システム解析だけでなく感度解析も合わせて行なう場合でも計算量の増加分を低次のオーダーに止めるような計算法を,かなり一般的なシステムモデルに対して確立した.さらに,従来、分野ごとに異なったやり方や用語で導入されていた“随伴系",“共役系"等々の概念は,数値計算論的な接近法により統一的に理解できることを示した.通常の浮動小数点表示に限らず,区間数,指数部長可変浮動小数点数等,多様な数値データ型を統一的に扱うようなソフトウェアも試作した.また,「感度解析が行ないやすいような,すなわち,エレメントの変動がシステム全体の特性に及ぼす影響が予知しやすいような,そのような構造の特徴付け」という問題意識が研究を進める過程で得られ,直並列システム等の実際的な構造をそのようなものの例として位置づけた.このことは感度解析を単なる“解析"のレベルから構造設計のレベルに止揚するという意味で工学的意義が高い.
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