本研究は基板上に作成した脆性薄膜に微小球圧子を押込むことによるリングクラックの発生現象を利用して薄膜の破壊強度を評価する方法を確立することを目的としたもので、本年度は3年継続の最終年度である。 本年度の主な研究成果は次の通りである。 1.前年度のTiN薄膜・WC基板接合体(膜厚2μm)に対する微小球圧子押込み試験(4種類の球圧子径)より求めたTiN薄膜のリングクラック発生荷重とリングクラック半径を使って、リングクラック半径(接触円半径より5〜15%大きい)の位置の半径方向引張応力を微小破壊強度と再定義して求めた(前年度は接触円境界における半径方向引張応力の最大値を微小破壊強度と定義)。その結果、微小破壊強度は2母数ワイブル分布に従うこと、接触円境界の応力をパラメータとして求めた場合に比べて平均値は37〜40%小さく、変動係数は22〜86%大きくなることがわかった。また球圧子径が小さいほど大きくなる球圧子径依存性を示すことがわかった(前年度の場合も微小破壊強度は2母数ワイブル分布に従い、球圧子径依存性を示す)。 2.1で求めた微小破壊強度を使って、有効面積の概念に基づいて一様応力状態における薄膜の破壊強度を推定した。その結果、推定値は球圧子径に対してほぼ一定であり(前年度の場合の微小破壊強度は球圧子径依存性を示す)、さらにTiNのバルク材の強度とほぼ一致することがわかった。ただし、推定はX線応力測定法より求めた薄膜の残留応力を考慮して行った。 3.新たにAl_2O_3薄膜・WC基板接合体(膜厚2μm)に対して球圧子押込み試験(3種類の球圧子径)を行って、微小破壊強度を測定した。その結果、Al_2O_3薄膜の微小破壊強度はTiN薄膜と同様に2母数ワイブル分布に従うこと、球圧子径依存性を示すことがわかった。 4.3で求めた微小破壊強度を使って、有効面積の概念に基づいて一様応力状態の薄膜の破壊強度を推定した。その結果、推定値は球圧子径に対してほぼ一定となったが、Al_2O_3のバルク材の強度より小さいことがわかった。ただし、推定は薄膜と基板の熱膨張係数の違いから求めた残留応力を考慮して行った。
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