本年は2年継続の最終年として膜疲労試験法を確立しその信頼性を向上した上で、疲労破壊特性に及ぼす膜厚効果を材料学的知見を基に考察した。その結果を以下に要約する。 1.母材貫通穴に膜を接着し、母材穴径自身の変形を利用する膜疲労試験法では、母材穴径が異なる場合に同一力学パラメータによる膜疲労破壊特性評価が必要である。ここでは、そのためのパラメターを解析的に評価した。その結果、膜厚100、50μmの工業用純鉄を用い、膜疲労によるすべりとき裂の発生挙動に対しては幕内の軸方向の応力振幅により、また、き裂伝ぱ挙動に対しては応力拡大係数により、それぞれ母材穴径によらず評価できた。 2.結晶粒径は約20μmで膜厚を100、50、40μmと変えた疲労試験結果と、膜厚100μmで結晶粒径を20、13μmと変えた疲労試験結果を比較して、疲労挙動に及ぼす膜厚寸法自身と結晶粒の効果を分離して調べた。その結果、疲労き裂伝ぱは膜厚寸法並びに結晶粒の増加と共に抑制されるが、一方すべり発生から微小き裂生成までの寿命は、結晶粒が少なく結晶粒相互の拘束が大きくないほど増加する結果となった。このことは、板厚方向に存在する結晶の方位に依存して、粒内き裂の伝ぱが抑制され貫通き裂になりにくいことを示しており、結晶粒微細化の膜疲労破壊特性に及ぼす効果を考える上で重要な点である。3.母材穴径に接着した膜の変形(たわみ)において、疲労試験前後で差がないことから、疲労試験中の膜の座屈は生じていないこととを確認した。さらに、純銅膜(100μm)およびチタン膜(50μm)の疲労き裂伝ぱ試験も可能であり、各種膜材へ適用できる見通しを得た。
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