研究概要 |
多くの分野で利用されつつある繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)により,締結用部品であるボルト・ナットも試作されているが,射出成形法や転造法によるFRTPねじは形状精度や機械的性質に問題がある.FRTPねじの強度は,ねじ山内部の繊維がねじ山形状に沿って配列するのがよいと考えられる.径方向に超音波振動する転造工具を用いてねじ転造を行えば,工具による材料の引きずりや繊維の切断がなくねじ山が成形され,内部の繊維の配列は改善され,ねじの機械的性質の改善が期待される. 本年度は径方向共振円盤を利用した転造工具の設計・試作およびその支持方法の検討を行い,20kHzにおいて十分な径方向共振振幅が得られた.さらに,これを用いて超音波振動によるFRTPねじ転造装置の設計・試作を行った.基礎実験としてM10ねじを想定したV溝の転造工具による転造実験を行い,転造工具の振動振幅,転造力などの転造条件と,V溝の形状精度との関係について検討を行い,超音波振動によるV溝の転造における適切な転造条件を求め,超音波振動によりFRTPねじの転造が可能であることを示した. 超音波振動により転造したV溝の断面を走査形電子顕微鏡により観察したところ,V溝周辺ではガラス繊維はV溝形状に沿って配列しており,繊維の配列の改善が確認された.超音波振動により転造したV溝の強度特性の検討のため,V溝を転造した試験片の引張り試験を行ったところ,引張り強さは素材の約60%であった.加工による材料の性質の変化の検討のためV溝周辺の硬さを測定したところ,加工表面近傍において硬さの低下がみられた.機械的性質の改善には転造条件や転造後の後処理等の検討がさらに必要である.
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