液晶電子表示素子の製作においては棒状の液晶分子の配向方向を積極的に制御する技術が重要な役割を果たしている。従来から実用されているTwisted NematicやSuper Twisted Nematic液晶素子では、液晶分子をガラス基板に平行かつ一方向に均一に並べる平行配向(Homogeneous配向)処理が必要不可欠となっており、この液晶分子の配向機構としては物理化学的な相互作用と弾性的な相互作用の両者により決定されると考えられている。前者は液晶分子をガラス表面に平行あるいは垂直に配向させる場合に優先的な働きをし、後者は補助的な働き、即ち、平行配向の場合、分子の配向方向を決定する。これらをもとにこれまで著者は、摩擦した固体表面に垂直配向処理することにより液晶分子が垂直方向より僅かに傾いた液晶の分子配向が簡便に得られ、下地層の材料及びラビング条件により液晶分子のチルト角を制御できることが確認された。この結果に基づき、基板表面のラビングによる傾斜垂直配向法、THR法(Tilted Homeotropic Alignment Using the Rubbing Method)を新たに提案し、さらに、実際にポジタイプのゲスト・ホスト型セルを作成し、本法の有用性を示した。傾斜垂直配向技術は最近特に重要になってきている。これはこの配向がポジタイプのゲスト・ホスト型セルのみならずSuper Homeotropic LCDとVertically Aligned Nematic LCDの名前で提案されている高マルチプレックス電界制御型複屈折性液晶セルに必要になるためである。ここで提案したTHR法は僅かに傾斜した垂直配向を得る際に斜め蒸着を使う必要がなく、大面積、大量生産の製造に適している。
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