研究概要 |
光学顕微鏡を用いたステレオ表示法は,焦点深度が浅いといった光学顕微鏡の有する欠点を逆に利用し,画像処理手法とコンピューターグラフィックスの融合により,奥行き方向の情報を含みかつ視野全体に焦点の合った画像を得る方法である。このシステムの基本的な骨格は,画像処理を専門とする研究室との共同研究により大方の完成を見ており,また昨年度の研究により,レンズの防水法ならびにサンプルの保持方法,ワークステーション導入による画像処理の高速化に関する問題が解決された。以上の研究成果を受け,本年度は試料観察を行うに際しての問題点を検討するとともに,組成の異なる各種混練水を用いた実際のセメント鉱物の水和反応の観察を通して,反応形態の変化と本システムにおいて必要とされる画像処理の速度に関する検討を行った。 画像の高倍率化に伴って光量の増加が必要となり,その際に生ずるハレーションが懸念されたが、実際の観察画像においては高倍率化によって視野が狭くなるため光量は減少し,極度なハレーションの発生は認められなかった。また,ある程度のハレーションに関しては,画像処理の段階において除去が可能であることが明らかとなった。一方,画像処理の高速化によりステージの駆動速度が高速化し,レンズと試料の距離が短いためにステージの駆動に伴って液相中に流れが発生することが予想された。本研究におけるステージの総駆動距離は数10μmであり,その間の時間が約3分である。したがって,平均して毎分10〜20μmでステージは移動していることとなるが,本研究において実施した全ての観察を通じて,流れによるものと思われる試料の移動は認められなかった。これは,液相と試料の比重差により試料は底部近くにあり,液相の動きの影響を受けにくい状態にあったためと思われる。なお,本研究においては最長12時間の連続観察を行ったが,12時間連続の反射光の照射による液相温度の上昇は1℃未満であり、反射光の連続照射が観察試料の反応に及ぼす影響はないことがわかった。試料観察を通じて,カルシウムアルミネート系水和物の反応形態の観察に関しては充分な高速化が成されていることが明らかとなったが,カルシウムサルホアルミネート系水和物の反応形態の観察を行うためには,なお一層の画像処理の高速化が必要であることがわかった。
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