従来土構造の耐震設計に用いられてきた地震時震度はおおむね0.15ないし0.2程度であった。つまり地震加速度として200ガル程度の値が想定され、自重の15%から20%の力が水平方向に加えられてきたのである。ところが近年直下型地震というものにも注意が向けられるようになってきた。震央距離の短いとき、たとえ地震マグニチュードが小さくとも最大加速度は大きくなる。たとえば1994年ロスアンジェルスのNorthridge地震では、IGを超す水平加速度が震央の近くで観測された。このような強い加速度は大きな慣性力を土の中にも発生させ、今まで想像されていなかったようなふるまいを土にさせる可能性がある。 慣性力は土粒子一つ一つに作用する力である。これが大きすぎて粒子接点の摩擦力を上回る時、土の粒子構造は内部から破壊するのではないか。このような予測を確かめるために、以下の模型実験を行なった。 実験の目的は、強い加速度あるいは慣性力が作用するときの、土のせん断強度を実験的に測ることである。そこで埋設管の横引き実験装置を使うことにした。これは埋設した直径3cmの管を横方向に引っぱって、横引きに必要な力を測るものである。乾燥した豊浦砂を三層のふるいを通して堆積させ、相対密度が20%から50%の模型地盤を作成した。水を含まない砂なので、振動中に過剰間隙水圧が発生したりすることがない。 常時の管横引き力に比べ、強い振動が起っているときの横引き抵抗は、かなり小さいことがわかった。抵抗の減少率は振動加速度の強さに依存し、砂密度や振動周波数には関係しないようである。地盤は乾燥しているので液状化の可能性はないが、過剰間隙空気圧が上昇して有効応力を低下させている恐れも検討した。測った空気圧上昇はわずかであり、管の横引き抵抗には影響していないと結論した。 砂粒子は慣性力によって粒子間接触を生じたり失ったりしている。接触を失った粒子はせん断抵抗を負担しない。このような粒子の割合が増えるとともに地盤のせん断強度は減っていくのであろう。
|