研究概要 |
形状記憶効果を利用した合金は実用的に多く利用されている。この効果はマルテンサイト変態と呼ばれる結晶の構造相転移によって生ずることが判っている。しかし,肝心のマルテンサイト変態の詳細なメカニズムについては未だよく判っておらず,形状記憶効果の根本的な解明には至っていない。その変態機構の解明を妨げている最大の要因として物質中の組成ゆらぎが上げられる。本研究ではこの性質を持つ最も単純な物質であり,かつ単体であるために全く組成ゆらぎのない金属ナトリウム単結晶を用いてマルテンサイト変態の機構を調べることを目的とした。そのため,X線および中性子散乱法を利用しての散乱強度の温度変化を定量的に測定し,その解析を行なった。その結果を以下に述べる。1)二次相転移の場合に見られる相変態に関する前駆現象がTAフォノンの温度変化に現れるかどうかを中性子非弾性散乱法を用いて調べた結果,何の変化も見られなかった。2)相変態後には結晶の内部歪に起因したHuang散乱が観測された。この強度の散乱ベクトル依存性を利用して低温相のクラスターサイズを求め,約3nmと見積ることが出来た。3)相転移点Msより上の温度で一定にし約120分経過すると突然低温相の構造が出現するという新しい現象を見い出した。この時間をincubation timeと呼ぶ。一方,Msより下の温度では遅延せずにすぐに低温相が出現することが判った。以上の実験結果を基に,ミクロな立場での一次相変態の機構の解明を追求する予定である。
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